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ふれあい美術館

 わが国ではまだ珍しい公立の写真美術館が奈良に建てられたのは、 奈良大和路の風景や仏像の写真家として知られる入江泰吉が、 生前に全作品のフィルム約80,000点を奈良市に寄贈したからである。
 入江泰吉は明治38年に奈良に生れ、 古美術の鑑定と補修業の父、 美術学校に入学した兄の影響を受け、 写真の世界に入り、 数多くの写真展に入賞し、 浪速短期大学の写真専攻主任教授も務め、 昭和41年勲四等瑞宝章を受章、 平成4年に没した。
 入江さんの写真館として親しまれている同美術館は、 奈良市の高畑、 新薬師寺に隣接した閑静な場所にあり、 本瓦葺きのなだらかで低い大屋根の一風変った建物であり、 地上1階地下2階で、 ひろびろとした総ガラス張りのエントランスロビーからは、 三方に池をめぐらせ、 奥には竹薮や木立を背景とし日本人の美意識を具現化させ、 現代的なものと伝統的なものが巧みに組み合わされている。 また地階のギャラリーに面しては池と段々畑をイメージした庭をつくり、 自然光をふんだんに取り入れて地階という暗い感じはない。 設計は有名な黒川紀章氏で、 この設計で日本芸術院賞 (建築部門) が贈られている。
 展示品は別として建物内部の構造やインテリアが、 写真好きにとっては全て被写体となり得る。 館全体が芸術作品である。 展示室はA室B室の二つしかなく通常はA室で入江作品を展示しているが、 入江作品を常時ハイビジョンギャラリーで公開している。 静止画番組 「奈良大和路春夏秋冬」 等3番組を110インチの大型画面で上映しており、 一見の価値がある。 また展示室の横に写真関係の書籍を蒐めた図書室があり、 興味のある人にとっては貴重な存在である。 入江写真の特色の1つに定点撮影があり、 近鉄西ノ京駅南西にある大池畔よりの薬師寺伽藍の四季等は有名である。 晩年は被写体を花に移し、 また蓮上天女等の仏教画も遺している。

奈良市写真美術館

〒630-8301 奈良市高畑町600-1

TEL 0742-22-9811 FAX 0742-22-9722

開館時間/午前9時30分〜午後5時

(入館は4時30分)
休 館 日/月曜日・祝日の翌日・12月27日〜1月3日

観 覧 料/一般500円/高校・大学生200円

/小・中学生100円

(第2・第4土曜日は小中高校生は無料)

/団体 (30人以上) 2割引
作品解説/第2土曜日午後2時から当館学芸員
駐 車 場/1時間まで無料

 住友家の屋号を冠した泉屋博古館 (せんおくはくこかん) は、 その名の通り住友家の代々の当主が蒐集した東洋美術のコレクションを春と秋に公開展示している美術館です。
 丸太町通りの突き当たり東天王町を鹿ケ谷の方へ少し入った閑静な住宅街の一角に、 鉄筋コンクリート造り二階建ての青銅器類を常設展示する1号館と平屋の2号展示館が緑の木々の中に隠されるように建てられています。
 この美術館は、 中国や日本の書画、 工芸品、 茶道具や文房具と多岐にわたる収蔵品2千数百点を擁していますが、 中でも秀逸なのは、 紀元前15・6世紀、 殷 (商) 周時代以降の世界的に有名な中国古青銅器類のコレクションです。 これは住友家15代当主が今世紀初めから約30年間にわたって蒐集したものと、 その意を継いだ先代当主が集めた古銅器の 「彝器(いき)」 等です。 「彝器」 とは、 宗廟に常に備えておく器のことをいい青銅製の酒器や水差し、 食器、 楽器等をいいます。 形は楕円形等容器としての特性を兼ね備えているものが一般的ですが、 中には怪獣の形をしたものもあります。 またその表面は空想的な怪獣文様や渦文、 雷文等怪異な文様が一面に施されています。 その1つ 「虎食人K (こしょくじんゆう)」 は名前の通り、 虎が子供を前に抱えてまさに食べんとしている形をした酒器ですが、 太い眉毛に大きな眼をむき、 鋭い牙をもち口を大きくあけた形は魔よけの神としての精霊の姿を表したものと言われています。 これら青銅器は大抵は鋳型から作られたとのことですが、 古代中国の人々の技術の高さに驚かされます。
 照明を落とし、 螺旋状に配置された展示室を楽器、 酒器、 食器、 鏡と種類毎に展示されたものを見て回るうち、 彝い器の呪術力のせいでもないでしょうが、 現世のことなど忘れてしまうとても落ち着いた一種不思議な感慨におそわれます。
 私が訪れたときは、 2号館では 「近代陶芸名品展」 と題して、 明治中期以降陶芸改革の先駆者となった人々の作品を公開していました。 それまでの輸出向け陶磁器から脱却して、 日本画や彫刻の技術に裏打ちされた意匠や技法の改良を行った京焼きの清風与平や伊東陶山、 関東の宮川香山や、 板谷波山等の作品です。 印象的だったのは、 板谷波山作 「葆光彩磁珍果文花瓶」 です。 これは青を基調として中国風の文様を取り入れ、 3つの円窓に桃と枇杷、 そして葡萄がとても精巧に描かれている高さ50センチ強の大きな花瓶ですが、 初めてみる 「葆偃光釉」 と呼ばれる艶消しの釉薬がかけられているため、 文様に霞がかかったようになっており、 全体が頬ずりしたくなるようなとても柔らかな印象を与える花瓶で、 当時のお金で1,800円もの大金を投じて購入されたのもなるほどとうなずけます。
 この美術館は哲学の道に近く南禅寺から銀閣寺への通り道にあります。 日頃目にする機会のない中国青銅器文化の一端を日本にいながら垣間見ることが出来ます。 春秋行楽の1日、 東山山麓散策のついでに立ち寄られてはいかがでしょうか。
泉屋博古館(せんおくはくこかん)

〒606-8431 京都市左京区鹿ケ谷下宮ノ前町24

TEL 075-771-6411 FAX 075-771-6099
開館月/3月〜6月、 9月〜11月(月曜日、 祝日は休館
    但し祝日が日曜と重なる場合は開館)
時 間/午前10時〜午後4時30分(4時入館〆切)

入場料/大人700円/学生500円

団体 (20名以上) 2割引


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